日本
強いということ
ステージ 1
ストーリー 近藤結
編集 CLAチーム
イラスト Monica Ha
ナレーション 羽田野 愛
お母さんへ
あれから私は大きくなりました。お母さんや、みんなに会いたいです。
でも私はまだここにいるから、強く生きたいと思います。
洋は強い人です。勉強もできます。母はよく電話で私と洋を比べて不満を言います。私は洋が大好きですが、比べられるのは嫌いです。私たちのゼミでは、今年、東北大地震について、写真展を開きます。私は何度か東北へ行きました。地震と津波で、多くの人が亡くなりました。けれど町の人たちは元気で、今も海で働いていました。あるおばあちゃんは「たくさん泣いたから、あとは笑えばいい」と言いました。
写真展では最後の部屋の壁全体に「東北の人のことば」を貼ります。
「多くの人を幸せにしたい」
「野球がんばってます」
「元気になった町へいらっしゃい」
たくさんのことばを集めていた時、若い男性が質問しました。「他と違うことを書いてもいいですか?」彼は素敵な家族写真を私たちに見せながら、こう書きました。
「家族に会いたい」
電話が鳴りました。また母からです。電話を取らない私に、洋が言いました。「出なくていいの?」「洋には関係ない。」私は母をうるさいと思っていました。「今のうちにたくさん話したほうがいい。実は、私も東北出身なんだ。私は、もう一度家族に会いたい。」
私は、あのおばあちゃんを思い出しました。あのおばあちゃんも洋も、強くなければ生きていられなかったのです。
写真展の前日、洋は壁の前にいました。たくさんのことばの前で、洋は小さく見えました。
洋は太い字で
「生きる」
と書き、壁に貼りました。
母が写真展に来ました。私は前日に招待の手紙を送っていました。母は私を抱き寄せて言いました。「生きててくれてありがとう。」母は泣いていました。
恥ずかしがる私を見ながら、洋が遠くで笑っていました。
お母さんへ
写真展が始まります。私は東北の人の強さを知りました。私は弱いから、時にはお母さんと喧嘩します。でも、お母さん、生きててくれてありがとう。私はお母さんの娘でよかった。
THE END